Winvestバフェットの手紙(2009年度版)

2009年度版のバフェットからの手紙の翻訳です。今回は、原文のP8~10の「Regulated Utility Business(規制公益事業)」のパートの翻訳をお届けします。世に出回っているバフェットやバークシャーに関する本に書いてあるようなイメージしかなかった人には、意外な内容かもしれません。Happy Reading!

規制公益事業

バークシャーは、MidAmerican Energy Holdingsの89.5%の利権を所有しています。この会社は様々な公共事業を所有しています。大きなものでは次のようなものがあります。(1)Yorkshire Electricity and Northern Electric、380万人に電力を供給する全英3位の電力会社。(2)MidAmerican Energy、主にアイオワ州で72万5000人に電力を供給。(3)Pacific Power and Rocky Mountain Power、西部6州において、170万人に電力を供給。(4)Kern River and Northern Natural pipelines、全米で消費されるガスの8%を運搬。

MidAmericanには、デイブ・ソコル(Dave Sokol)とグレッグ・アベル(Greg Abel)という2人の素晴らしい経営者がいます。さらに、私の長年の友人であるウォルター・スコットが大株主です。ウォルターは、どのような事業にもずば抜けたビジネスの手腕をもたらします。デイブ、グレッグ、ウォルターとの10年間は、私の信念を強めました。バークシャーには、これ以上のパートナーは望めない、と。彼らは本当にドリームチームです。

なんだか不似合いですが、MidAmericanはHomeServices of Americaというアメリカで2番目に大きな不動産証券会社を所有しています。この会社は、16,000人のエージェントがいる21のローカル企業を通じて営業しています。昨年は住宅販売にとってひどい年ではありましたが、この会社はそこそこの売上を達成しました。また、昨年はシカゴで一社取得しましたし、今後も良い価格で手にはいるなら、他の良質な仲介事業も取得するつもりです。10年後、HomeServicesはいまよりずっと大きな会社になりそうです。

MidAmericanのオペレーションについてキーとなる数字を見てみましょう。

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多くの場合、独占的にサービスを提供している規制電力事業では、良いサービスを提供したり将来のニーズに投資することについて、それを頼りとしている顧客と共生できる方法で事業を行っています。許可申請や施設の建設期間は長期間にわたるので、先見の明があることは我々に義務として課されています。同様に、将来のニーズを満たすために使う必要のある巨額の資本に対して適切なリターンを得るために、我々は利用者に代わって規制を行う規制当局に目を向けます。我々が約束したことを実行することなしに、規制当局がその責任を果たしてくれることを期待するべきではありません。

デイブとグレッグは、その約束の履行を確実にしてくれています。複数の調査会社が、我々のアイオワや西部における事業をいつも業界でトップクラスにランキングしてくれています。同様に、Mastioによるランキングでは、米国の43のパイプラインの中で、我々のKern RiverとNorthern Naturalの施設は、同立2位となりました。

さらに、我々は将来に備えるだけでなく、より環境にやさしい事業を行うために、膨大な金額を注ぎ込み続けています。我々が10年前にMidAmericanを買収して以来、この会社はこれまで配当をしていません。その代わり、我々が事業を行うそれぞれの地域で、施設を改善し拡大するためにその利益を使ってきました。1つのドラマチックな例として、この3 年で、アイオワと西部の事業では25億ドルをかせぎましたが、その間、風力発電施設に30億ドルを投資してきました。

MidAmericanは社会への責任を堅実に果たし続け、そしてまた、社会の信用に応え続けてきました。ほぼ例外なく、規制当局は、我々が投下しなくてはならない増大し続ける資本に対して、フェアなリターンを得ることを認めてくれています。いずれは、私たちはこの領域で役立つために必要なことなら、当局が期待する方法で何でもするつもりです。同様に、私たちの投資に値するリターンがこれからも許容されると信じています。

当初、チャーリーと私は、公共事業のような資本集約的な事業を避けてきました。確かに、投資家にとって最良のビジネスとは、高い資本利益率を持っており、成長のために必要な資本投下が毎年増え続けるようなことがないものです。私たちは幸運にも多くのそのようなビジネスを所有していますし、そのような企業をもっと買いたいと考えています。しかし、バークシャーがこれからますます多くのキャッシュを生み出すことを見込んで、定期的に大きな資本投下を必要とするビジネスに喜んで全く参入しようと思います。これらのビジネスには、追加発生する投下資本に対してきちんとしたリターンを得ることへの合理的な見込みがあると考えています。 もしこのビジネスが我々の期待通りなら、我々はそうなると信じていますが、バークシャーの成長し続けるすばらしい企業の集合体は、数十年後には、確かに華々しいものではないかもしれませんが、平均以上のリターンを生み出すはずです。

BNSF(バーリントン・ノーザン・サンタ・フェ)の事業には、電力事業と共通する、ある重要な経済的特性に注目する必要があります。どちらのケースでも、我々は顧客、コミュニティ、そして国家の経済的安定にとって必須の基本的なサービスを提供しています。両者は今後数十年間、減価償却費をはるかに超える巨額の投資を必要とするでしょう。また両者とも、過去のニーズを凌駕すると予想される将来の需要を満たす計画をしなければなりません。最後に、両者とも、設備を維持、交換、拡張するために自信を持って大きな投資を行うことが出来るよう、正当なリターンを得ることが出来ると確信できる賢明な規制当局を必要としています。

我々の公益事業と同様に、公共と我々の鉄道事業の間には「社会契約」が存在しています。どちらの側がその義務を忌避しても、両者が必然的に被害を被ります。従って、この社会契約を結んでいる双方とも、互いが満足できるような振る舞いが必要だということを理解するべきですし、そうできると信じています。優れた電気網や鉄道網をなくして、我が国が十分な経済的ポテンシャルを発揮することは不可能です。我々は、それらが存在することを確認するために本分をつくすつもりです。

今後、BNSFの業績はこの「規制公益事業」のセクションに含まれるでしょう。この2つの事業が根本的に同じような経済的特性を持っているという点はさておき、両者とも、バークシャーによって保証されていない相当額の負債を利用するのに相応しい存在です。両方とも、利益の大部分を内部留保するでしょう。鉄道事業はより大きな景気循環を示すでしょうが、どちらの事業も良い時期にも悪い時期にも大きな利益を上げ、大きな投資を行うでしょう。何百億、そう何百億ドルという自己資本の投資が必要となりますが、全体としては、この分野が時間とともにかなりの儲けをもたらすと考えています。

ちょっと長かったですね。ここまで読んでいただきありがとうございます。さて、このセクションでは、電気、ガス、鉄道など、公共事業を営む企業群について書かれています。

バフェット、あるいはバークシャーというと、コカ・コーラなどに代表されるように、設備投資や研究開発投資などをあまり必要とせずにキャッシュをジャブジャブ生む企業を好んで買収するという印象がありますが、「今後数十年にわたって減価償却を超える投資を必要とし続ける」ようなこの業界の企業は、全く異なるタイプだと言えます。。莫大な設備投資を必要とする一方で、ミッドアメリカンは10年間「配当していない」とバフェットは語っています。

このことは、「どのように自分たちを測定するか」の最後のセクションでバフェットが言及したことと関連しています。バークシャーのサイフが大きくなった結果、利息がどんどん増加していく「Greatな口座」に該当するような投資対象だけでは、キャッシュがダブついてしまう。そもそもそんな投資案件って世に溢れているわけではないですからね。となると、預入額を増やし続ける必要はあるけれど、ほどほどの利息を生んでくれる「Goodな口座」に該当する投資が相対的に増えてくるわけです。今後も「適切な」リターンは得られるとバフェットは考えているのでしょうが、「率」でみればリターンは確実に下がっていくのでしょう。これまでのようなパフォーマンスは望めない可能性が高そうです。

それどころか、この事業への投資は大きな損失を生む可能性もないとは言えません。将来この分野でものすごいイノベーションが起こった結果エネルギーサプライの方法ががらりと変わり、既存の電力会社が必要とされなくなるという事態が起きないとは言えないでしょう。膨大な投資を必要とし、キャッシュフローを選るのに時間がかかるこのような事業への投資は危険かもしれません。

その一方で、バフェットはしっかりとリスクヘッジしていると考える向きもあります。友人でブログ「0から始める投資」の中の人である@jar2さんは、バフェットが地方債の購入・保障行っていることを指摘した上で、次のような考察を寄せてくれました(改行位置変更をはじめ、若干原文メールから改変しています)。ちなみに、「0から始める投資」には、財務知識の基礎やバリュー投資の基本がまとめられているページがあり大変オススメ! バフェットBOTもぜひフォローを♪

公益事業のこと考えてみた。

サブプライム問題が顕在化してきた2007年の年末あたりからの行動と繋がってると思います。バークシャー・ハザウェイ・アシュアランスを作ったりして、都市や州が学校や上下水システム、病院など公共事業をまかなうために発行する地方債の保証を行ってるよね。

格付けがAAAの新会社とバークシャー本体から「地方公益事業の公債を安く買って」、それと同時に「地方の建設事業を支える設備系企業を買ってる」。

この2つの事実から、地方債を安く買い、その上で地方公共事業には欠かせない設備系企業をおさえ、そして地方公共事業の資金調達に必要不可欠な地方債の保証事業を執り行い、地方自治体が資金調達をしやすくするということが言える。

地方債を保証することで債券価格が適正になって資金調達がしやすくなり、公共事業も活性化。設備系企業の受注も増える。その結果地方債のリスクが減る。

っと、こんな感じで考えてみたけどどうだろうか(^^

 バフェットのこの分野への投資が吉と出るか凶と出るか、それは時の経過をまたなければ誰にも分かりません。それより大切なことは、バフェットの意志決定の思考を自分でもなぞってみようと試みること。あるいは、自分がバフェットの立場だったら、どのように意志決定をするか自分なりに考えてみることではないでしょうか。もちろんそのためには、ミッドアメリカンを初めその企業について詳しく知る必要がありますが。。。

人生、ビジネスあらゆるものに当てはまることですが、投資意志決定に唯一絶対解はありません。保険事業のセクションで触れられていたように、バフェットも誤った意志決定をすることがあります。重要なことは再現性を高められるように、正しい思考パターンでものごとを考えることではないでしょうか。そのためには、何度も試考することが欠かせません。その点で、バフェットは最高の知のスパークリング相手ではないでしょうか?

さて、次回は"Manufacturing, Service and Retailing Operations"のパートの訳をお送りします。実はもう訳し終わっているので、前後の駄文作成と入力に手間取っているわけです(苦笑)。最後まで、お読みいただきありがとうございました。^-^

Winvestバフェットの手紙(2009年度版)

今回から、バークシャー(傘下)の各事業について、触れられていきます。まずはじめは、原文P6~8にある、バークシャーの潤沢なキャッシュフローの源泉でもある保険事業についてです。だいぶ長いですが、バークシャーのビジネスモデルのコアな部分の一端が分かる部分ですので、ぜひ楽しみながら読んでもらえると嬉しいです。

保険事業

私たちの損害保険ビジネスはバークシャーの成長のエンジンであり、これからもそうあり続けるでしょう。この事業は、私たちに大成功をもたらしました。私たちは、このビジネスを155億ドルで計上しています。しかしながら、これらの会社はそれ自体が抱えている価値以上の価値があります。次に説明する、この業界のもつエコノミックモデルを見れば、それがなぜだか分かるでしょう。

保険業者はプレミアムを先払いで受け取り、保険金を後で支払います。極端な例をあげれば、支払いは数十年後になります。このように先にお金を集め後で支払うモデルでは、私たちが「フロート」と呼ぶ最終的には他人のところへ行く多額の資金が手元に残ります。そして、その資金が手元にある間に、我々はそれを運用することができます。個々の保険金は出たり入ったりしますが、我々が保持するフロートの量はきわめて安定しています。

保険の掛け金が、支払金と結果的に生じる損失を上回っているなら、私たちはフロートから生じた投資収益となる保険引受利益を計上します。この組み合わせは、私たちに自由な資金をもたらし、さらにそれを保持することによってさらに稼ぐことが出来ます。残念なことに、この幸福な結末の可能性は激しい競争を起こします。その結果、ほとんどの年で、この業界全体としては大きな損失を被っています。この損失は、事実上、フロートを保持するためにこの業界が払うものです。通常、このコストはかなり低いのですが、突発的な災害に襲われた年には、フロートから得た収益を食い尽くしてしまいます。

バイアスのかかった見方ですが、バークシャーは世界で最良の保険事業を持っています。また、最良の経営陣がいると、自信を持って言うことができます。私たちのフロートは、このビジネスに参入した1967年の1600万ドルから、2009年の終わりには620億ドルまで成長しました。さらに、7年間連続で保険引受利益を得ています。これから先も全てではないにしろほとんどの年で保険引受利益を出し続けられることを、私は確信しています。そうすれば、あたかも、誰かが利息の支払いの必要のない620億ドルを貸してくれたかのように、われわれのフロートはコストなしの資金になるでしょう。

コストなしのフロートがこの業界全体で期待される結果ではないことを再び強調したいと思います。ほとんどの年で、保険の掛け金は保険金の支払いとその経費をカバーできませんでした。従って、業界全体のリターンとしては、何十年間の間S&P500のリターンに劣ります。ただ我々には非常に優秀な経営陣がいるので、バークシャーには素晴らしい結果がもたらされています。私たちの保険事業のCEO達は、バークシャーに何十億ドルもの価値をもたらしているのですから、みなさんの賞賛を受けるに値すると思います。私は、このオールスターについて、みなさんに伝えられることを嬉しく思います。

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毎年8億ドルの広告予算(自動車保険業界の中では我々の次に予算を使っているの会社の倍近い予算)のおかげで皆さんよくご存じのガイコから始めましょう。ガイコはトニー・ナイスリーが経営しています。彼は18歳の時に入社し、現在66歳です。ちょうど私が79歳で小躍りしながら仕事をしているのと同じように、トニーは今でも毎日、オフィスにタップダンスしながらで出勤します。私たち二人とも自分の大好きなビジネスをしていることをラッキーだと感じています。

ガイコの顧客は、ガイコに対して暖かい感情を持っています。ひとつの証明として、バークシャーが1996年にガイコの支配権を得て以来、その市場シェアは、2.5%から8.1%まで増加しました。これは、700万人が新たに保険契約を結んだと言うことになります。おそらく彼らは、我々のヤモリがかわいかったので、我々に連絡をとってきたのでしょう。しかし彼らは、貴重なお金を節約するために私たちの保険を買ったのです(皆さんも電話やネットでガイコの保険に申し込めますよ)。また、価格だけでなく、ガイコのサービスも気に入ったからこそ、彼らは契約を続けているわけです。

(※訳注:ガイコのマスコットはヤモリ。参考:ガイコのTVCM

バークシャーは、2つの段階を経てガイコを買収しました。1976-80年は、私たちは、4700万ドルでガイコ株式のおよそ3分の1を買いました。数年にわたるガイコ自身による大量の自社株買の結果、バークシャーは追加で株式を購入することなくガイコの半数のシェアを得ました。その後、1996年1月2日、私たちは、現金で、最初に購入した金額の約50倍となる23億ドルでガイコの残りの50%を得ました。

我々の経験は、ウォールストリートの古いジョークに近いものです。

顧客: XYZ株を5ドルで買えました、ありがとうございます。いまは18ドルになったと聞きました。

ブローカー: まだまだこれからですよ。この会社は上手くいっていますからね。以前購入された時よりも、18ドルで買った方が良いくらいですよ。

顧客: えっ、マジで?! そうなら、あのとき買わずに今日まで待てば良かったな。。。

ガイコの成長は2010年は減速するかもしれません。米国の車両登録数は、自動車販売の不振のため減少しています。さらに、高い失業率の結果、多くのドライバーが保険に入らなくなっています(それは大抵どこでも違法なのですが、仕事を失ったとしても運転する必要があれば・・・)。しかしながら、我々の「低コストプロデューサー」のステータスは、将来必ず我々に大きな利益をもたらします。1995年にはガイコはアメリカで6番めに大きな自動車保険業者でしたが、現在はナンバー3です。ガイコのフロートは27億ドルから96億ドルまで成長しました。同様に重要なのは、ガイコは、バークシャーが所有した14年間のうち13年で、保険引受利益を出しているということです。

私は、1951年の1月に20歳の学生として初めてこの会社を訪れた時、ガイコにドキドキしていました。今では、トニーのおかげで、もっともっとドキドキしています。

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バークシャーの歴史における非常に重要な出来事は1985の土曜日に起こりました。 アジット・ジェイン(Ajit Jain)がオマハの私たちのオフィスへ来たのです。そして、私たちはスーパースターを発見したのです(彼は、最近はセント・マイクと祭り上げられているマイク・ゴールドバーグによって見いだされました)。

私たちは直ちにアジットにNational Indemnity社の苦戦している小さな再保険事業を任せました。数年間で、彼はその事業を保険の世界で最も大きなもののひとつに育て上げました。

たった30人で運営されているアジットの事業は、保険業界のいくつかの分野の業務サイズで記録を作りました。アジットは10億ドルの限度額を補償し、次に、他の保険会社と一緒にリスクを放っておく代わりにそのリスクから10セントをづつキープしています。3年前、彼はロイズから巨大な債務を引き継ぎました。そして、この322年続いた組織を脅かした問題を抱えた保険証書を切った27,972人との関係をクリーンナップしました。その一回の契約に対するプレミアムは、71億ドルでした。2009年には、彼はこれから先50年以上にわたって500億ドルのプレミアムを生むであろう生命再保険契約についての交渉を進めました。

アジットのビジネスは、ちょうどガイコとは逆のものです。ガイコでは、主に年々新しくなる何百万もの小さな保険契約があります。アジットは比較的少ない保険契約を結び、そして、その中身は年々大きく変わります。非常に大きく特殊な保険をかける必要があるときに電話をかける相手として、彼は世界中でその名を知られています。

チャーリーとわたし、そしてアジットが沈みそうなボートに一緒にいて、もし助けられるのが1人だけだとしたら、アジットを救って下さい。

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我々の3番めのお金を生み出す保険事業はゼネラル・リーです。数年前は、この事業には色々と問題がありましたが、現在は、我々の保険事業という王冠の中できらめく宝石となっています。

タッド・モントロス(Tad Montross)のリーダーシップの元で、2009年はゼネラル・リーにとって素晴らしい年となりました。また同時に、巨額のフロートを我々にもたらしました。ゼネラル・リーの損害保険事業とともに、タッドと彼の同僚は、これからますます価値のでる大きな生命再保険事業を作り上げました。

昨年、ゼネラル・リーはついにケルン・リーの100%の所有権を得ました。そして、1995年以来、世界における我々のプレゼンスの一端として、部分的な所有ではありましたが、ケルン・リーは重要な存在でした。タッドと私は、ケルン・リーの経営陣のバークシャーに対する多大な貢献に感謝するために、9月にケルンを訪問する予定です。

最後に、我々は多くの比較的小規模な会社を所有しています。それらのほとんどは、保険業界のニッチな分野を専門としています。全体で見ると、その業績は一貫して利益をあげています。そして、下の表が示すように、それらの企業が我々にもたらすフロートは相当な量です。チャーリーと私にとって、これらの会社とその経営陣達は宝物のようなものです。

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(訳注:左側が保険業務収益Underwriting Profit、右がその年の年度末のフロートの額Yearend Float)

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そして今度は、ひとつ辛い告白をします。昨年、みなさんの会長は、完全に自分自身のせいで非常に高くつく失敗を犯しました。

長年私は、何百万もの忠実なガイコの顧客に提供できるものがないかどうか考え続けていました。不幸にも、私はクレジットカード事業を始めるという素晴らしい考えを思いついてしまったのです。私は、ガイコの保険契約者の信用リスクには問題がないから、我々が魅力的なクレジットカードを提供すれば、彼らはそれに飛びついてくるだろうと結論づけました。我々は、ビジネスをスタートさせました。しかし、間違ったタイプのビジネスを始めてしまったのです。

私が正気に戻るまでに生じたクレジットカード事業の税引き前損失はおよそ630万ドル。その後、9800万ドルのポートフォリオを1ドルあたり55 セントで売却し、4400万ドルの損失を追加で出しました。

ガイコの経営陣達は、私の考えにあまり乗り気ではなかった、ということを強調しなければなりません。彼らは私にこう警告したのです。ガイコの顧客のクリームを得る代わりに、、、さて、それを非クリームとでも呼びましょうか、それをえると言って反対しました。その時私は、自分が彼らより年上であり、さらにいくばくか賢いことを示唆しました。

しかし実際のところ、私は単に年を食っているだけだったのです。

 さて、ここまで読んでいただきありがとうございました。いかがでしたでしょうか。バフェット、そしてバークシャーというと、その運用実績にばかり目がいきがちです。しかし、運用と同じくらい大切なのは、その運用資金をどのように調達してきたか、ということです。

極端な例ですが、株式投資、パチスロ、競馬、なんでもいいのですが、年率2000%(20倍!)のリターンをあげたとしても、トイチでその資金を調達してきたとしたら、トータルでマイナスとなってしまいます。

バークシャーは、保険の「フロート」を活用することにより、コストゼロの運用資金を得ているということになります。ここが、隠れたバークシャーの強みということになります。非常に興味深いですよね!

バークシャーのビジネスモデルってホント面白いですね。

Winvestバフェットの手紙(2009年度版)

引き続きバフェットからの手紙の翻訳です。今回は、原文P4~5の「What We Don’t Do(われわれがやらないこと)」のパートの訳をお送りいたします。死ぬ場所が分かれば、そこに近寄らないので死ぬことはないというバフェットのパートナー、チャーリー・マンガーの言葉を用いながら、「バークシャーがやらないこと」のいくつかの例を挙げています。4つの例の中にバフェットの投資哲学、経営哲学が詰まっています。

われわれがやらないこと

昔、チャーリーが、彼の最大の野心を教えてくれました。「知りたいことは自分がどこで死ぬのかということだけだ。そして、そこへは決して近寄らないだろう」 このちょっとした知恵は偉大なプロシア人数学者ヤコビにインスパイアされたものです。この数学者は、難しい問題を解いている人に「逆にやりなさい、いつも逆からやりなさい」と助言しました。 (私は、この逆アプローチをもっと簡単に説明することもできます。カントリーソングを逆に歌ってみて下さい。そうすればあなたはすぐに車や家や妻を取り戻せるでしょう。)

それでは、バークシャーにおいて、チャーリーの考えをどのように適用するかのいくつかの例を示してみましょう。

  • その商品がどんなに面白いものでも、チャーリーと私は、その将来が評価できないビジネスは避けています。過去、人々が自動車(1910年の)、航空機(1930年の)、およびテレビ(1950年の)のような産業を待ち受ける素晴らしい成長を見通すために、明晰な頭脳は必要ありませんでした。しかし、また、その未来にはその業界に参入するほとんどすべての会社を殺すような競争力学を含んでいました。その競争を勝ち抜いた企業ですら多くの血を流す傾向がありました。
    ある業界の未来に素晴らしい成長が待ち受けていることを分かっていたとしても、競争の結果、投下資本に対する利益やリターンがどうなるか、チャーリーや私に判断できるとは限りません。バークシャーは、収益が数十年間にわたり合理的に予測できるようなビジネスにこだわります。そうであっても、私たちは多くの誤りを犯すでしょう。
  • 私たちは決して、見知らぬ人の親切に依存するようにはなりません。"Too-big-to-fail"(大きすぎて潰せない)であることは、バークシャーの頼みの綱ではありません。かわりに、私たちは常に業務(問題)を整理し、生じうるあらゆるキャッシュの必要性に耐えられる流動性を確保しておきます。さらに、その流動性は多くの、そして多様なビジネスによって得られる大量のキャッシュによって、絶えずリフレッシュさえています。
    2008年9月に金融システムが心停止に陥ったとき、バークシャーは嘆願者ではなく、金融システムへの流動性と資本の供給者でした。危機のピーク時には、さもなくば連邦政府しか当てにすることができなかった業界に155億ドルを注ぎ込みました。そのうち90億ドルは、われわれの即時融資を必要としていた、高い評価を得ており、それまで安定していた3つのアメリカ企業の資本強化に使われました。残りの65億ドルは(訳注:マーズによる)リグリーの買収に資金となりました。
    私たちは、私たちの最高の財務力を維持するためにはお金に糸目は付けません。私たちが常に保持している200億ドル超の現預金資産は、現在のところ、僅かな利子を得るのみです。けれども、ぐっすり寝ることが出来ます。
  • 私たちは、多くの子会社について管理監督したりモニタリングせず、おのおのの経営に任せる傾向があります。それはすなわち、私たちが時にマネジメント上の問題に気づくのが遅れたり、経営上あるいは資本的な意志決定において、もし相談されていたならチャーリーや私が同意しないようなものがなされるということを意味します。しなしながら、経営者のほとんどは、巨大な組織ではほとんど見られない貴重な株主重視の態度を維持することにより、我々の信頼に応えながら与えられた独立性を用いています。息苦しい官僚制度のせいで意志決定が遅れたりなされなかったために生じる見えないコストを被るよりも、まずい意志決定の結果生じる目に見えるコストを支払う方がましだと考えます。
    BNSFの獲得によって、私たちには、現在、約25万7千人の従業員と文字通り何百もの稼働ユニットがあります。 私たちは、それぞれをさらに多く持つことを望んでいます。しかし、バークシャーは委員会や予算プレゼン、複数の管理層に侵されたモノリスには決してならないでしょう。かわりに、私たちは、意志決定の大部分がオペレーションレベルでなされる、それぞれが管理されているミドルサイズのビジネスの集合体として経営することを考えています。チャーリーと私がすることは、資本を配分し、リスクをコントロールし、経営者を選び、彼らの報酬を設定することに限定します。
  • 私たちはウォール街に言い寄る気はまったくありません。 メディアやアナリストの評価に基づいて売ったり買ったりする投資家は、我が社にとっての投資家ではありません。そうではなく、自分たちが理解できるビジネスに長期投資することを願っていたり、方針に共感してバークシャーに加わりたいというパートナーを求めています。もしチャーリーと私がパートナー数人の小さなベンチャーに入るなら、オーナーとマネージャーの間で目標が共有されており、運命を共にするということがビジネスにおいては幸せな結婚となる、ということを理解しシンクロできる人々がいるかどうかをみます。巨大なサイズにスケールアップしたとしても、その真実は変わりません。
    株主に理解され共感してもらえるように、私たちは株主と有益なコミュニケーションを直接したいと思います。私たちの目標は、みなさんとの立場が逆になったときに知りたいことを、みなさんに伝えることです。さらに、我々は四半期と通期の財務情報を週末にインターネットに公開するようにしています。結果、みなさんや他の投資家は取引の出来ない週末に我々の企業に何が起きているのかを知るための十分な時間をとることができます。(時折、SECの締め切りは金曜日以外の公開を強制します。) これらの事柄は、簡単に数段落の記事にまとめることは出来ませんし、マスコミが好むキャッチーな見出しにすることもできません。
    昨年、私たちは、サウンドパイト(訳注:テレビ・ラジオのニュース番組などで短く引用される政治家などの発言・所見など。しばしば主旨を誤り伝える)な報道が間違うひとつの例をみました。昨年の手紙の1万2830語の中にこのような一文がありました。 「私たちは、例えば、経済が2009年、あるいはさらに先まで、よろよろ歩きであることを確信していますが、それがマーケットの上昇を意味するのか下落を意味するかは分かりません。」 多くの報道機関が、事実、騒音のように、このセンテンスの始めの部分を、後半部分には触れることなく報道しました。これはひどい報道です。誤伝された読者は、チャーリーや私が株式市場の悪材料を予測したと考えたでしょう。私たちはこの一文だけでなく、他のところでも、マーケットの予測は全く行っていないと明らかにしているにも関わらずです。扇情家によってミスリードされた投資家たちは、大きな代償を支払いました。その手紙が公開された日に7,063ドルだったダウは、年末には1万428ドルとなったのです。
    このような例をあげれば、なぜわたしがみなさんと直接、省略されることなく完全な形でコミュニケーションをとることを好むか分かると思います。

それでは次にバークシャーの事業の詳細に移りましょう。 私たちには、貸借対照表と収益の特性がそれぞれ異なる4つの主要セクターがあります。 したがって、それらをひとまとめにすると、分析の阻害となります。そこで、チャーリーと私が実際にそう見ているように、この4つをそれぞれ別の企業のように一つ一つ説明しようと思います。

このパートでは、早速バフェットらしい思わずニヤニヤしてしまう表現が登場しています。バフェットの手紙の人気の一つが、そしてバフェット自身の人気の一つが、このようなウィットが効いた表現です。

ところで、「われわれのしないこと」の4つの例のひとつめは、多くの投資初心者に貴重な示唆を与えてくれます。投資歴の短長に関わらず多くのバリュー投資初心者は、その業界の将来性にのみで等し判断をしてしまう傾向があります。「この業界は絶対伸びるはずだ」、と。

しかし、例え伸びると分かっていても、その業界内の企業の利益率、あるいは投資リターンが高いとは限りません。伸びると明白な業界には多くの企業が参入し”レッドオーシャン”となり、利益率が低下することは珍しいことではありません。また、例え、特殊な技術や巨大な資本などが必要で、寡占が見込める業界であっても、その成長を織り込んだ高い株価がついていたとしたら、予想通りその企業が大きな利益をあげたとしても、投資家が高いリターンを得られるとは限りません。それどころか、高すぎる株価で投資を行っていたとしたら、企業が利益を出しているにも関わらず、株価下落により損害を被る可能性もあるわけです。

だからこそ、投資意志決定においてはDCFによる企業価値計算が必要となるわけです。

 

Winvestバフェットの手紙(2009年度版)

今回から数回にわたって、バークシャー・ハサウェイのCEOウォーレン・バフェットの株主への手紙(Warren Buffett’s Letters to Berkshire Shareholders)の2009年版の日本語訳をお送りしたいと思います。

ウォーレン・バフェットは、アメリカの著名な投資家で、世界一のバリュー投資家、オマハの賢人などとも呼ばれています。彼の経営するバークシャー・ハサウェイの株主総会には、世界中から彼の話をきこうと株主が集まります。

バフェットによる「株主への手紙」は、バークシャーのアニュアルレポートに含まれる同社の株主へ向けたメッセージです。バークシャーの所有する企業およびその業界に関する説明や、経済全体に関するバフェットの洞察が含まれるこの手紙は、同社の株主のみならず、世界中の投資家が注目しており、ニュース等に取り上げられるほどです。

日本でも、「バフェットからの手紙」という本に、過去の手紙がまとめられていますが、この本の原書が発売されたのは10年以上前のことになります。特に昨今の経済的な大きな変化をバフェットは、どのように捉えているのか。今回、最新の手紙となる2009年のバフェットからの手紙の日本語訳に挑戦してみました。専門用語の誤訳はもちろん、基本的な文章の意味の取り違えなど、色々と正確さを欠くところはあると思いますが、楽しんで読んでもらえれば嬉しいです。(誤訳等の指摘を頂けるともっと嬉しいです。)

バークシャー・ハサウェイの株主の皆さんへ

 

2009年度の純資産の増加額は218億ドルで、クラスA 株、クラスB株のひと株あたり簿価はともに19.8%増加しました。過去45年間で、book valueは19ドルから8万4487ドルまで、年率20.3%で増加しました。

(※このレポートの中でのひと株あたりの数値はすべてA株のもので、B株 はその1/1500です。)

最近のバークシャーによるバーリントン・ノーザン・サンタ・フェ(BNSF)の獲得は約50 万人の既存株主に、新たに少なくとも6万5000人の株主を加えました。私の長年のパートナーであるチャーリー・マンガーと私にとって、株主のみなさんが、バー クシャーのオペレーション、目標、制限、および文化を理解していることは、重要なことです。従って、毎年のアニュアルレポートでは、私たちを導く経済原則を繰 り返し述べています。今年は、これらの原則はアニュアルレポートの89-94ページに掲載してあります。私はみなさんに、特に新しく株主となった方々に、これを読むことを強くお勧めします。バークシャーは、何10年もの間、これらの原則を固く守っており、私がいなくなったあとも、ずっとそうし続けるでしょ う。

また、この手紙の中で、私たちのビジネスの基礎のいくつかを振り返りたいと思います。それは、BNSFの新しい株主にとってはオリエンテーションになるでしょうし、バークシャーのベテラン株主にとってはリフ レッシュコースとなるでしょう。

 

どのように自分たちを測定するか

表紙に私たちの経営成績を評価するための測定基準を載せています。始めから、チャーリーと私は、私たちが成し遂げたこと、そして成し遂げられなかったことを測る合理的でしっかりとした基準を持っていると信じていました。そのおかげで、パフォーマンスの矢がどこに刺さったのかを見た後で、そこに的を描くという誘惑から逃れることができました。

S&P500種株価指数を我々のボギーとしたのは簡単な選択でした。なぜなら、私たちの株主はインデックスファンドを持つことにより事実上コストなしでそのパフォーマンスを得ることが出来 るからです。なぜ彼らは単にその結果をコピーするためだけに、私たちにコストを支払うべきでしょうか?

私たちにとって難しかったのは、S&Pに対してバークシャーの成長をどう測定するかということでした。単に私たちの株価の変化を使用するという考え方もあります。事実、長い期間をとってみれば、それが最適でしょう。しかし、その年その年の相場はたいへん不安定になる可能性があります。測定の期間の始めや終わりの株価がアホみたいに高かったり安かったりすることで、10年間くらいの長い評価であっても非常に大きく歪むことがあります。マイクロソフトのスティーブ・バルマーやGEのジェフ・イメルトは、このような問題についてみなさんに語ることができるでしょう。彼らは、経営のバトンを受け継いだ時点でついてい た鼻血の出るような株価に苦しめられました。

私たちの年一度の成長を測定する理想的な基準はバークシャー の一株当たり内在価値における変化でしょう。 なんて悲しいことでしょう!その価値は正確に計算することはできないのです。そこで、私たちはそれに代わる粗い代用品を使用します。それが一株当たりの帳簿価額です。 この尺度に頼ることには、短所があります(私たちは92、93ページで短所について議論します)。 さらに、大抵の会社の帳簿価額は実態価値を控え目に言います。そして、それは確実にバークシャーにもあてはまります。 概して、私たちのビジネスは帳簿上の数値よりかなり高い価値があります。 私たちの極めて重要な保険業では、更にその違いは巨大です。しかし、たとえそうだとしても、チャーリーと私は、私たちの帳簿価額が最も役に立つ内在価値の変化の追跡装置となると信じています。この測定において、この手紙の冒頭で述べたように、1965年以来の私たちの帳簿価額は毎年20.3%の成長を遂げました。

ひと株あたり帳簿価額の代わりに市場価格を尺度として選んだなら、バークシャーの結果がさらに良く見えることに注目して下さい。この場合1965年以来、毎年22%の成長を示すことになります。驚くべきことに、この複利成長における小さな差が45年間を通してみると、簿価の増加が434,057%となる一方、株価の上昇は801,516%となります(2ページ参照)。株価上昇率の方がよりよいのは、バークシャーの株式が1965年に儲からない繊維事業の簿価を適切に割り引いた株価となっていた一方、こんにちのバークシャー株は常に一流の事業群の帳簿価額にプレミアがのって取引されているからです。

まとめると、2ページの表には3つのメッセージが含まれています。そのうちの2つは良いもので、ひとつは非常に悪いものです。まず最初に、私たちは、1965-69年に始まり、2005-09で終る、どの5年間(41の組み合わせがあります)においても、帳簿価額における私たちの成長がS&Pを 下回ったことはありません。第2に、いくつかの年においては市場が上向きだったためS&Pに後れをとってしまいましたが、マイナス成長となった11年においては我々は一貫してS&Pのパフォーマンスを上回りました。つまり、我々はオフェンスよりもディフェンスが上手いということです。それはこれからも続くでしょう。

大きなマイナスというのは、私たちの規模が大きくなるにつれパフォーマンスの優位性が激減し、この悲しいトレンドはこれからも確実に続くということです。確かに、バークシャーには多くの優れた事業と、彼らの才能を最大限引き出す独特の企業文化の中で働いている本当に素晴らしい経営者によって運営されている組織があります。チャーリーと私は、これらの要素が、これからも平均以上の結果を生み続けると信じています。しかし、莫大な金額は自らの重しとなり、我々の将来の優位性は例えあるにせよ、我々の長年の歴史においては僅かな部分を占めるのみになるでしょう。

1965年から2009年までの45年間で、バークシャーの株価は800倍以上になりました。この偉大な実績こそ、バフェットが世界一の株主と呼ばれる所以なのでしょう。

このセクションで注目すべきなのは、次の2点でしょう。ひとつは、バークシャーはプラス成長を記録したいくつかの年ではS&Pに遅れをとるものの、マイナス成長を記録した年では常にS&Pを上回るパフォーマンスを維持していることです。バフェットはこのことを「ディフェンスが上手い」と表現していますが、投資においていかに損をしないことが重要かが示唆されていると思います。

もうひとつの注目するポイントは、バフェットの非常に残念な告白です。これまで年平均22%の株価成長を記録してきたバークシャーですが、今後は、パフォーマンスが下がるだろう、とバフェットは正直に述べています。これは考えてみれば当たり前の話で、労働しようと投資をしようと100円を2倍にする(200円にする)のは容易ですが、1兆円を2倍にするのは容易なことではないでしょう。このことと同様に、バークシャーの規模が大きくなり過ぎたということでしょう。後継者問題なども含め、今後バークシャーがどうなるのか、非常に興味深いですね。

(ではまた)

 

望楼守の生思考境界のない世界

21世紀になり10年がたとうとしている。新しい世紀を迎えてから今日までの間、世界のグローバル化はそれまで以上に進み、企業はますます国境を越えて活動するようになった。先進国が成熟を迎え成長を足踏みしている一方で、中国、インド、ブラジルなどの国々が著しい成長を見せている。また、ITをはじめとしたテクノロジーは日々進化を遂げ、高性能PCや携帯電話、その他の様々な端末、通信インフラの普及は、インターネットを生活の中心にすえようとしているようにみえる。グローバル化は、先進国には豊かさをもたらし、途上国には成長の機会をもたらしている。しかし、その一方でグローバル化は世界を不安定にもしている。こんにちの金融危機による株式相場、為替相場の乱高下は、もはや予測不可能である。

このような環境下において、日本の社会、そして企業はうまく適応できていないようにみえる。サブプライムショックに端を発した経済危機において、サブプライムローンには直接関係のない日本の株価が大きく下がり、こんにちまで回復に手間取っている。企業は成長戦略をなかなか打ち出せない一方で、若年層社員の離職率の上昇やモチベーションの低下に悩まされている。

世界中の企業が英語を共通言語に、世界中から優れた人材を活用し成長しようとしている中、日本企業は日本語の壁に阻まれグローバルな組織への転換がはかれないでいる。輸出企業としてグローバル化の恩恵を受けてきた日本企業だが、現在の状況にはうまく適応できていないようである。

また、日本企業は日本国内の人材の活用にも手間取っている。こんにちの日本の若い世代は、飢えを知らない世代である。長く続く不況、失われた10年などという時代を子供の頃に過ごした世代ではあるが、しかし、かつての戦後やあるいはアメリカの大恐慌のように、貧困と飢えにさいなまれるような経験はしていない。むしろ、物心ついた頃から、テレビやエアコン、ゲーム機といったものに囲まれて育った世代である。このようにものが溢れる時代しかしらない世代に対して、消費者としてどのようにマーケティングすればよいのか、あるいは、従業員としてどのように動機づければよいのか、企業は五里霧中の状況にある。

グローバル化やテクノロジーの進歩などにより、世界はいま大きく変わろうとしている。そして、取り巻く環境の変化に合わせて、企業もそこで働く人も、いま新しいパラダイムが求められている。これまでうまく機能してきた組織形態、マネジメント手法、あるいは個人の働き方や仕事観は、この変化にうまく適応できない。世界の変化によって、企業組織とはたらく人はどのように変わり、あるいはどう変化する必要があるのだろうか。

これから数回にわたり、グローバル化という取り巻く環境の変化による影響を、企業組織にかかわるマクロな視点と、個人の仕事観にかかわるミクロな視点から論じたいと思う。

キーワードは「境界のない世界」である。