2009年度版のバフェットからの手紙の翻訳です。今回は、原文のP8~10の「Regulated Utility Business(規制公益事業)」のパートの翻訳をお届けします。世に出回っているバフェットやバークシャーに関する本に書いてあるようなイメージしかなかった人には、意外な内容かもしれません。Happy Reading!
規制公益事業
バークシャーは、MidAmerican Energy Holdingsの89.5%の利権を所有しています。この会社は様々な公共事業を所有しています。大きなものでは次のようなものがあります。(1)Yorkshire Electricity and Northern Electric、380万人に電力を供給する全英3位の電力会社。(2)MidAmerican Energy、主にアイオワ州で72万5000人に電力を供給。(3)Pacific Power and Rocky Mountain Power、西部6州において、170万人に電力を供給。(4)Kern River and Northern Natural pipelines、全米で消費されるガスの8%を運搬。
MidAmericanには、デイブ・ソコル(Dave Sokol)とグレッグ・アベル(Greg Abel)という2人の素晴らしい経営者がいます。さらに、私の長年の友人であるウォルター・スコットが大株主です。ウォルターは、どのような事業にもずば抜けたビジネスの手腕をもたらします。デイブ、グレッグ、ウォルターとの10年間は、私の信念を強めました。バークシャーには、これ以上のパートナーは望めない、と。彼らは本当にドリームチームです。
なんだか不似合いですが、MidAmericanはHomeServices of Americaというアメリカで2番目に大きな不動産証券会社を所有しています。この会社は、16,000人のエージェントがいる21のローカル企業を通じて営業しています。昨年は住宅販売にとってひどい年ではありましたが、この会社はそこそこの売上を達成しました。また、昨年はシカゴで一社取得しましたし、今後も良い価格で手にはいるなら、他の良質な仲介事業も取得するつもりです。10年後、HomeServicesはいまよりずっと大きな会社になりそうです。
MidAmericanのオペレーションについてキーとなる数字を見てみましょう。
多くの場合、独占的にサービスを提供している規制電力事業では、良いサービスを提供したり将来のニーズに投資することについて、それを頼りとしている顧客と共生できる方法で事業を行っています。許可申請や施設の建設期間は長期間にわたるので、先見の明があることは我々に義務として課されています。同様に、将来のニーズを満たすために使う必要のある巨額の資本に対して適切なリターンを得るために、我々は利用者に代わって規制を行う規制当局に目を向けます。我々が約束したことを実行することなしに、規制当局がその責任を果たしてくれることを期待するべきではありません。
デイブとグレッグは、その約束の履行を確実にしてくれています。複数の調査会社が、我々のアイオワや西部における事業をいつも業界でトップクラスにランキングしてくれています。同様に、Mastioによるランキングでは、米国の43のパイプラインの中で、我々のKern RiverとNorthern Naturalの施設は、同立2位となりました。
さらに、我々は将来に備えるだけでなく、より環境にやさしい事業を行うために、膨大な金額を注ぎ込み続けています。我々が10年前にMidAmericanを買収して以来、この会社はこれまで配当をしていません。その代わり、我々が事業を行うそれぞれの地域で、施設を改善し拡大するためにその利益を使ってきました。1つのドラマチックな例として、この3 年で、アイオワと西部の事業では25億ドルをかせぎましたが、その間、風力発電施設に30億ドルを投資してきました。
MidAmericanは社会への責任を堅実に果たし続け、そしてまた、社会の信用に応え続けてきました。ほぼ例外なく、規制当局は、我々が投下しなくてはならない増大し続ける資本に対して、フェアなリターンを得ることを認めてくれています。いずれは、私たちはこの領域で役立つために必要なことなら、当局が期待する方法で何でもするつもりです。同様に、私たちの投資に値するリターンがこれからも許容されると信じています。
当初、チャーリーと私は、公共事業のような資本集約的な事業を避けてきました。確かに、投資家にとって最良のビジネスとは、高い資本利益率を持っており、成長のために必要な資本投下が毎年増え続けるようなことがないものです。私たちは幸運にも多くのそのようなビジネスを所有していますし、そのような企業をもっと買いたいと考えています。しかし、バークシャーがこれからますます多くのキャッシュを生み出すことを見込んで、定期的に大きな資本投下を必要とするビジネスに喜んで全く参入しようと思います。これらのビジネスには、追加発生する投下資本に対してきちんとしたリターンを得ることへの合理的な見込みがあると考えています。 もしこのビジネスが我々の期待通りなら、我々はそうなると信じていますが、バークシャーの成長し続けるすばらしい企業の集合体は、数十年後には、確かに華々しいものではないかもしれませんが、平均以上のリターンを生み出すはずです。
BNSF(バーリントン・ノーザン・サンタ・フェ)の事業には、電力事業と共通する、ある重要な経済的特性に注目する必要があります。どちらのケースでも、我々は顧客、コミュニティ、そして国家の経済的安定にとって必須の基本的なサービスを提供しています。両者は今後数十年間、減価償却費をはるかに超える巨額の投資を必要とするでしょう。また両者とも、過去のニーズを凌駕すると予想される将来の需要を満たす計画をしなければなりません。最後に、両者とも、設備を維持、交換、拡張するために自信を持って大きな投資を行うことが出来るよう、正当なリターンを得ることが出来ると確信できる賢明な規制当局を必要としています。
我々の公益事業と同様に、公共と我々の鉄道事業の間には「社会契約」が存在しています。どちらの側がその義務を忌避しても、両者が必然的に被害を被ります。従って、この社会契約を結んでいる双方とも、互いが満足できるような振る舞いが必要だということを理解するべきですし、そうできると信じています。優れた電気網や鉄道網をなくして、我が国が十分な経済的ポテンシャルを発揮することは不可能です。我々は、それらが存在することを確認するために本分をつくすつもりです。
今後、BNSFの業績はこの「規制公益事業」のセクションに含まれるでしょう。この2つの事業が根本的に同じような経済的特性を持っているという点はさておき、両者とも、バークシャーによって保証されていない相当額の負債を利用するのに相応しい存在です。両方とも、利益の大部分を内部留保するでしょう。鉄道事業はより大きな景気循環を示すでしょうが、どちらの事業も良い時期にも悪い時期にも大きな利益を上げ、大きな投資を行うでしょう。何百億、そう何百億ドルという自己資本の投資が必要となりますが、全体としては、この分野が時間とともにかなりの儲けをもたらすと考えています。
ちょっと長かったですね。ここまで読んでいただきありがとうございます。さて、このセクションでは、電気、ガス、鉄道など、公共事業を営む企業群について書かれています。
バフェット、あるいはバークシャーというと、コカ・コーラなどに代表されるように、設備投資や研究開発投資などをあまり必要とせずにキャッシュをジャブジャブ生む企業を好んで買収するという印象がありますが、「今後数十年にわたって減価償却を超える投資を必要とし続ける」ようなこの業界の企業は、全く異なるタイプだと言えます。。莫大な設備投資を必要とする一方で、ミッドアメリカンは10年間「配当していない」とバフェットは語っています。
このことは、「どのように自分たちを測定するか」の最後のセクションでバフェットが言及したことと関連しています。バークシャーのサイフが大きくなった結果、利息がどんどん増加していく「Greatな口座」に該当するような投資対象だけでは、キャッシュがダブついてしまう。そもそもそんな投資案件って世に溢れているわけではないですからね。となると、預入額を増やし続ける必要はあるけれど、ほどほどの利息を生んでくれる「Goodな口座」に該当する投資が相対的に増えてくるわけです。今後も「適切な」リターンは得られるとバフェットは考えているのでしょうが、「率」でみればリターンは確実に下がっていくのでしょう。これまでのようなパフォーマンスは望めない可能性が高そうです。
それどころか、この事業への投資は大きな損失を生む可能性もないとは言えません。将来この分野でものすごいイノベーションが起こった結果エネルギーサプライの方法ががらりと変わり、既存の電力会社が必要とされなくなるという事態が起きないとは言えないでしょう。膨大な投資を必要とし、キャッシュフローを選るのに時間がかかるこのような事業への投資は危険かもしれません。
その一方で、バフェットはしっかりとリスクヘッジしていると考える向きもあります。友人でブログ「0から始める投資」の中の人である@jar2さんは、バフェットが地方債の購入・保障行っていることを指摘した上で、次のような考察を寄せてくれました(改行位置変更をはじめ、若干原文メールから改変しています)。ちなみに、「0から始める投資」には、財務知識の基礎やバリュー投資の基本がまとめられているページがあり大変オススメ! バフェットBOTもぜひフォローを♪
公益事業のこと考えてみた。
サブプライム問題が顕在化してきた2007年の年末あたりからの行動と繋がってると思います。バークシャー・ハザウェイ・アシュアランスを作ったりして、都市や州が学校や上下水システム、病院など公共事業をまかなうために発行する地方債の保証を行ってるよね。
格付けがAAAの新会社とバークシャー本体から「地方公益事業の公債を安く買って」、それと同時に「地方の建設事業を支える設備系企業を買ってる」。
この2つの事実から、地方債を安く買い、その上で地方公共事業には欠かせない設備系企業をおさえ、そして地方公共事業の資金調達に必要不可欠な地方債の保証事業を執り行い、地方自治体が資金調達をしやすくするということが言える。
地方債を保証することで債券価格が適正になって資金調達がしやすくなり、公共事業も活性化。設備系企業の受注も増える。その結果地方債のリスクが減る。
っと、こんな感じで考えてみたけどどうだろうか(^^
バフェットのこの分野への投資が吉と出るか凶と出るか、それは時の経過をまたなければ誰にも分かりません。それより大切なことは、バフェットの意志決定の思考を自分でもなぞってみようと試みること。あるいは、自分がバフェットの立場だったら、どのように意志決定をするか自分なりに考えてみることではないでしょうか。もちろんそのためには、ミッドアメリカンを初めその企業について詳しく知る必要がありますが。。。
人生、ビジネスあらゆるものに当てはまることですが、投資意志決定に唯一絶対解はありません。保険事業のセクションで触れられていたように、バフェットも誤った意志決定をすることがあります。重要なことは再現性を高められるように、正しい思考パターンでものごとを考えることではないでしょうか。そのためには、何度も試考することが欠かせません。その点で、バフェットは最高の知のスパークリング相手ではないでしょうか?
さて、次回は"Manufacturing, Service and Retailing Operations"のパートの訳をお送りします。実はもう訳し終わっているので、前後の駄文作成と入力に手間取っているわけです(苦笑)。最後まで、お読みいただきありがとうございました。^-^