Winvestバフェットの手紙(2009年度版)

今回から数回にわたって、バークシャー・ハサウェイのCEOウォーレン・バフェットの株主への手紙(Warren Buffett’s Letters to Berkshire Shareholders)の2009年版の日本語訳をお送りしたいと思います。

ウォーレン・バフェットは、アメリカの著名な投資家で、世界一のバリュー投資家、オマハの賢人などとも呼ばれています。彼の経営するバークシャー・ハサウェイの株主総会には、世界中から彼の話をきこうと株主が集まります。

バフェットによる「株主への手紙」は、バークシャーのアニュアルレポートに含まれる同社の株主へ向けたメッセージです。バークシャーの所有する企業およびその業界に関する説明や、経済全体に関するバフェットの洞察が含まれるこの手紙は、同社の株主のみならず、世界中の投資家が注目しており、ニュース等に取り上げられるほどです。

日本でも、「バフェットからの手紙」という本に、過去の手紙がまとめられていますが、この本の原書が発売されたのは10年以上前のことになります。特に昨今の経済的な大きな変化をバフェットは、どのように捉えているのか。今回、最新の手紙となる2009年のバフェットからの手紙の日本語訳に挑戦してみました。専門用語の誤訳はもちろん、基本的な文章の意味の取り違えなど、色々と正確さを欠くところはあると思いますが、楽しんで読んでもらえれば嬉しいです。(誤訳等の指摘を頂けるともっと嬉しいです。)

バークシャー・ハサウェイの株主の皆さんへ

 

2009年度の純資産の増加額は218億ドルで、クラスA 株、クラスB株のひと株あたり簿価はともに19.8%増加しました。過去45年間で、book valueは19ドルから8万4487ドルまで、年率20.3%で増加しました。

(※このレポートの中でのひと株あたりの数値はすべてA株のもので、B株 はその1/1500です。)

最近のバークシャーによるバーリントン・ノーザン・サンタ・フェ(BNSF)の獲得は約50 万人の既存株主に、新たに少なくとも6万5000人の株主を加えました。私の長年のパートナーであるチャーリー・マンガーと私にとって、株主のみなさんが、バー クシャーのオペレーション、目標、制限、および文化を理解していることは、重要なことです。従って、毎年のアニュアルレポートでは、私たちを導く経済原則を繰 り返し述べています。今年は、これらの原則はアニュアルレポートの89-94ページに掲載してあります。私はみなさんに、特に新しく株主となった方々に、これを読むことを強くお勧めします。バークシャーは、何10年もの間、これらの原則を固く守っており、私がいなくなったあとも、ずっとそうし続けるでしょ う。

また、この手紙の中で、私たちのビジネスの基礎のいくつかを振り返りたいと思います。それは、BNSFの新しい株主にとってはオリエンテーションになるでしょうし、バークシャーのベテラン株主にとってはリフ レッシュコースとなるでしょう。

 

どのように自分たちを測定するか

表紙に私たちの経営成績を評価するための測定基準を載せています。始めから、チャーリーと私は、私たちが成し遂げたこと、そして成し遂げられなかったことを測る合理的でしっかりとした基準を持っていると信じていました。そのおかげで、パフォーマンスの矢がどこに刺さったのかを見た後で、そこに的を描くという誘惑から逃れることができました。

S&P500種株価指数を我々のボギーとしたのは簡単な選択でした。なぜなら、私たちの株主はインデックスファンドを持つことにより事実上コストなしでそのパフォーマンスを得ることが出来 るからです。なぜ彼らは単にその結果をコピーするためだけに、私たちにコストを支払うべきでしょうか?

私たちにとって難しかったのは、S&Pに対してバークシャーの成長をどう測定するかということでした。単に私たちの株価の変化を使用するという考え方もあります。事実、長い期間をとってみれば、それが最適でしょう。しかし、その年その年の相場はたいへん不安定になる可能性があります。測定の期間の始めや終わりの株価がアホみたいに高かったり安かったりすることで、10年間くらいの長い評価であっても非常に大きく歪むことがあります。マイクロソフトのスティーブ・バルマーやGEのジェフ・イメルトは、このような問題についてみなさんに語ることができるでしょう。彼らは、経営のバトンを受け継いだ時点でついてい た鼻血の出るような株価に苦しめられました。

私たちの年一度の成長を測定する理想的な基準はバークシャー の一株当たり内在価値における変化でしょう。 なんて悲しいことでしょう!その価値は正確に計算することはできないのです。そこで、私たちはそれに代わる粗い代用品を使用します。それが一株当たりの帳簿価額です。 この尺度に頼ることには、短所があります(私たちは92、93ページで短所について議論します)。 さらに、大抵の会社の帳簿価額は実態価値を控え目に言います。そして、それは確実にバークシャーにもあてはまります。 概して、私たちのビジネスは帳簿上の数値よりかなり高い価値があります。 私たちの極めて重要な保険業では、更にその違いは巨大です。しかし、たとえそうだとしても、チャーリーと私は、私たちの帳簿価額が最も役に立つ内在価値の変化の追跡装置となると信じています。この測定において、この手紙の冒頭で述べたように、1965年以来の私たちの帳簿価額は毎年20.3%の成長を遂げました。

ひと株あたり帳簿価額の代わりに市場価格を尺度として選んだなら、バークシャーの結果がさらに良く見えることに注目して下さい。この場合1965年以来、毎年22%の成長を示すことになります。驚くべきことに、この複利成長における小さな差が45年間を通してみると、簿価の増加が434,057%となる一方、株価の上昇は801,516%となります(2ページ参照)。株価上昇率の方がよりよいのは、バークシャーの株式が1965年に儲からない繊維事業の簿価を適切に割り引いた株価となっていた一方、こんにちのバークシャー株は常に一流の事業群の帳簿価額にプレミアがのって取引されているからです。

まとめると、2ページの表には3つのメッセージが含まれています。そのうちの2つは良いもので、ひとつは非常に悪いものです。まず最初に、私たちは、1965-69年に始まり、2005-09で終る、どの5年間(41の組み合わせがあります)においても、帳簿価額における私たちの成長がS&Pを 下回ったことはありません。第2に、いくつかの年においては市場が上向きだったためS&Pに後れをとってしまいましたが、マイナス成長となった11年においては我々は一貫してS&Pのパフォーマンスを上回りました。つまり、我々はオフェンスよりもディフェンスが上手いということです。それはこれからも続くでしょう。

大きなマイナスというのは、私たちの規模が大きくなるにつれパフォーマンスの優位性が激減し、この悲しいトレンドはこれからも確実に続くということです。確かに、バークシャーには多くの優れた事業と、彼らの才能を最大限引き出す独特の企業文化の中で働いている本当に素晴らしい経営者によって運営されている組織があります。チャーリーと私は、これらの要素が、これからも平均以上の結果を生み続けると信じています。しかし、莫大な金額は自らの重しとなり、我々の将来の優位性は例えあるにせよ、我々の長年の歴史においては僅かな部分を占めるのみになるでしょう。

1965年から2009年までの45年間で、バークシャーの株価は800倍以上になりました。この偉大な実績こそ、バフェットが世界一の株主と呼ばれる所以なのでしょう。

このセクションで注目すべきなのは、次の2点でしょう。ひとつは、バークシャーはプラス成長を記録したいくつかの年ではS&Pに遅れをとるものの、マイナス成長を記録した年では常にS&Pを上回るパフォーマンスを維持していることです。バフェットはこのことを「ディフェンスが上手い」と表現していますが、投資においていかに損をしないことが重要かが示唆されていると思います。

もうひとつの注目するポイントは、バフェットの非常に残念な告白です。これまで年平均22%の株価成長を記録してきたバークシャーですが、今後は、パフォーマンスが下がるだろう、とバフェットは正直に述べています。これは考えてみれば当たり前の話で、労働しようと投資をしようと100円を2倍にする(200円にする)のは容易ですが、1兆円を2倍にするのは容易なことではないでしょう。このことと同様に、バークシャーの規模が大きくなり過ぎたということでしょう。後継者問題なども含め、今後バークシャーがどうなるのか、非常に興味深いですね。

(ではまた)