引き続きバフェットからの手紙の翻訳です。今回は、原文P4~5の「What We Don’t Do(われわれがやらないこと)」のパートの訳をお送りいたします。死ぬ場所が分かれば、そこに近寄らないので死ぬことはないというバフェットのパートナー、チャーリー・マンガーの言葉を用いながら、「バークシャーがやらないこと」のいくつかの例を挙げています。4つの例の中にバフェットの投資哲学、経営哲学が詰まっています。
われわれがやらないこと
昔、チャーリーが、彼の最大の野心を教えてくれました。「知りたいことは自分がどこで死ぬのかということだけだ。そして、そこへは決して近寄らないだろう」 このちょっとした知恵は偉大なプロシア人数学者ヤコビにインスパイアされたものです。この数学者は、難しい問題を解いている人に「逆にやりなさい、いつも逆からやりなさい」と助言しました。 (私は、この逆アプローチをもっと簡単に説明することもできます。カントリーソングを逆に歌ってみて下さい。そうすればあなたはすぐに車や家や妻を取り戻せるでしょう。)
それでは、バークシャーにおいて、チャーリーの考えをどのように適用するかのいくつかの例を示してみましょう。
- その商品がどんなに面白いものでも、チャーリーと私は、その将来が評価できないビジネスは避けています。過去、人々が自動車(1910年の)、航空機(1930年の)、およびテレビ(1950年の)のような産業を待ち受ける素晴らしい成長を見通すために、明晰な頭脳は必要ありませんでした。しかし、また、その未来にはその業界に参入するほとんどすべての会社を殺すような競争力学を含んでいました。その競争を勝ち抜いた企業ですら多くの血を流す傾向がありました。
ある業界の未来に素晴らしい成長が待ち受けていることを分かっていたとしても、競争の結果、投下資本に対する利益やリターンがどうなるか、チャーリーや私に判断できるとは限りません。バークシャーは、収益が数十年間にわたり合理的に予測できるようなビジネスにこだわります。そうであっても、私たちは多くの誤りを犯すでしょう。- 私たちは決して、見知らぬ人の親切に依存するようにはなりません。"Too-big-to-fail"(大きすぎて潰せない)であることは、バークシャーの頼みの綱ではありません。かわりに、私たちは常に業務(問題)を整理し、生じうるあらゆるキャッシュの必要性に耐えられる流動性を確保しておきます。さらに、その流動性は多くの、そして多様なビジネスによって得られる大量のキャッシュによって、絶えずリフレッシュさえています。
2008年9月に金融システムが心停止に陥ったとき、バークシャーは嘆願者ではなく、金融システムへの流動性と資本の供給者でした。危機のピーク時には、さもなくば連邦政府しか当てにすることができなかった業界に155億ドルを注ぎ込みました。そのうち90億ドルは、われわれの即時融資を必要としていた、高い評価を得ており、それまで安定していた3つのアメリカ企業の資本強化に使われました。残りの65億ドルは(訳注:マーズによる)リグリーの買収に資金となりました。
私たちは、私たちの最高の財務力を維持するためにはお金に糸目は付けません。私たちが常に保持している200億ドル超の現預金資産は、現在のところ、僅かな利子を得るのみです。けれども、ぐっすり寝ることが出来ます。- 私たちは、多くの子会社について管理監督したりモニタリングせず、おのおのの経営に任せる傾向があります。それはすなわち、私たちが時にマネジメント上の問題に気づくのが遅れたり、経営上あるいは資本的な意志決定において、もし相談されていたならチャーリーや私が同意しないようなものがなされるということを意味します。しなしながら、経営者のほとんどは、巨大な組織ではほとんど見られない貴重な株主重視の態度を維持することにより、我々の信頼に応えながら与えられた独立性を用いています。息苦しい官僚制度のせいで意志決定が遅れたりなされなかったために生じる見えないコストを被るよりも、まずい意志決定の結果生じる目に見えるコストを支払う方がましだと考えます。
BNSFの獲得によって、私たちには、現在、約25万7千人の従業員と文字通り何百もの稼働ユニットがあります。 私たちは、それぞれをさらに多く持つことを望んでいます。しかし、バークシャーは委員会や予算プレゼン、複数の管理層に侵されたモノリスには決してならないでしょう。かわりに、私たちは、意志決定の大部分がオペレーションレベルでなされる、それぞれが管理されているミドルサイズのビジネスの集合体として経営することを考えています。チャーリーと私がすることは、資本を配分し、リスクをコントロールし、経営者を選び、彼らの報酬を設定することに限定します。- 私たちはウォール街に言い寄る気はまったくありません。 メディアやアナリストの評価に基づいて売ったり買ったりする投資家は、我が社にとっての投資家ではありません。そうではなく、自分たちが理解できるビジネスに長期投資することを願っていたり、方針に共感してバークシャーに加わりたいというパートナーを求めています。もしチャーリーと私がパートナー数人の小さなベンチャーに入るなら、オーナーとマネージャーの間で目標が共有されており、運命を共にするということがビジネスにおいては幸せな結婚となる、ということを理解しシンクロできる人々がいるかどうかをみます。巨大なサイズにスケールアップしたとしても、その真実は変わりません。
株主に理解され共感してもらえるように、私たちは株主と有益なコミュニケーションを直接したいと思います。私たちの目標は、みなさんとの立場が逆になったときに知りたいことを、みなさんに伝えることです。さらに、我々は四半期と通期の財務情報を週末にインターネットに公開するようにしています。結果、みなさんや他の投資家は取引の出来ない週末に我々の企業に何が起きているのかを知るための十分な時間をとることができます。(時折、SECの締め切りは金曜日以外の公開を強制します。) これらの事柄は、簡単に数段落の記事にまとめることは出来ませんし、マスコミが好むキャッチーな見出しにすることもできません。
昨年、私たちは、サウンドパイト(訳注:テレビ・ラジオのニュース番組などで短く引用される政治家などの発言・所見など。しばしば主旨を誤り伝える)な報道が間違うひとつの例をみました。昨年の手紙の1万2830語の中にこのような一文がありました。 「私たちは、例えば、経済が2009年、あるいはさらに先まで、よろよろ歩きであることを確信していますが、それがマーケットの上昇を意味するのか下落を意味するかは分かりません。」 多くの報道機関が、事実、騒音のように、このセンテンスの始めの部分を、後半部分には触れることなく報道しました。これはひどい報道です。誤伝された読者は、チャーリーや私が株式市場の悪材料を予測したと考えたでしょう。私たちはこの一文だけでなく、他のところでも、マーケットの予測は全く行っていないと明らかにしているにも関わらずです。扇情家によってミスリードされた投資家たちは、大きな代償を支払いました。その手紙が公開された日に7,063ドルだったダウは、年末には1万428ドルとなったのです。
このような例をあげれば、なぜわたしがみなさんと直接、省略されることなく完全な形でコミュニケーションをとることを好むか分かると思います。それでは次にバークシャーの事業の詳細に移りましょう。 私たちには、貸借対照表と収益の特性がそれぞれ異なる4つの主要セクターがあります。 したがって、それらをひとまとめにすると、分析の阻害となります。そこで、チャーリーと私が実際にそう見ているように、この4つをそれぞれ別の企業のように一つ一つ説明しようと思います。
このパートでは、早速バフェットらしい思わずニヤニヤしてしまう表現が登場しています。バフェットの手紙の人気の一つが、そしてバフェット自身の人気の一つが、このようなウィットが効いた表現です。
ところで、「われわれのしないこと」の4つの例のひとつめは、多くの投資初心者に貴重な示唆を与えてくれます。投資歴の短長に関わらず多くのバリュー投資初心者は、その業界の将来性にのみで等し判断をしてしまう傾向があります。「この業界は絶対伸びるはずだ」、と。
しかし、例え伸びると分かっていても、その業界内の企業の利益率、あるいは投資リターンが高いとは限りません。伸びると明白な業界には多くの企業が参入し”レッドオーシャン”となり、利益率が低下することは珍しいことではありません。また、例え、特殊な技術や巨大な資本などが必要で、寡占が見込める業界であっても、その成長を織り込んだ高い株価がついていたとしたら、予想通りその企業が大きな利益をあげたとしても、投資家が高いリターンを得られるとは限りません。それどころか、高すぎる株価で投資を行っていたとしたら、企業が利益を出しているにも関わらず、株価下落により損害を被る可能性もあるわけです。
だからこそ、投資意志決定においてはDCFによる企業価値計算が必要となるわけです。