望楼守の生思考境界のない世界

21世紀になり10年がたとうとしている。新しい世紀を迎えてから今日までの間、世界のグローバル化はそれまで以上に進み、企業はますます国境を越えて活動するようになった。先進国が成熟を迎え成長を足踏みしている一方で、中国、インド、ブラジルなどの国々が著しい成長を見せている。また、ITをはじめとしたテクノロジーは日々進化を遂げ、高性能PCや携帯電話、その他の様々な端末、通信インフラの普及は、インターネットを生活の中心にすえようとしているようにみえる。グローバル化は、先進国には豊かさをもたらし、途上国には成長の機会をもたらしている。しかし、その一方でグローバル化は世界を不安定にもしている。こんにちの金融危機による株式相場、為替相場の乱高下は、もはや予測不可能である。

このような環境下において、日本の社会、そして企業はうまく適応できていないようにみえる。サブプライムショックに端を発した経済危機において、サブプライムローンには直接関係のない日本の株価が大きく下がり、こんにちまで回復に手間取っている。企業は成長戦略をなかなか打ち出せない一方で、若年層社員の離職率の上昇やモチベーションの低下に悩まされている。

世界中の企業が英語を共通言語に、世界中から優れた人材を活用し成長しようとしている中、日本企業は日本語の壁に阻まれグローバルな組織への転換がはかれないでいる。輸出企業としてグローバル化の恩恵を受けてきた日本企業だが、現在の状況にはうまく適応できていないようである。

また、日本企業は日本国内の人材の活用にも手間取っている。こんにちの日本の若い世代は、飢えを知らない世代である。長く続く不況、失われた10年などという時代を子供の頃に過ごした世代ではあるが、しかし、かつての戦後やあるいはアメリカの大恐慌のように、貧困と飢えにさいなまれるような経験はしていない。むしろ、物心ついた頃から、テレビやエアコン、ゲーム機といったものに囲まれて育った世代である。このようにものが溢れる時代しかしらない世代に対して、消費者としてどのようにマーケティングすればよいのか、あるいは、従業員としてどのように動機づければよいのか、企業は五里霧中の状況にある。

グローバル化やテクノロジーの進歩などにより、世界はいま大きく変わろうとしている。そして、取り巻く環境の変化に合わせて、企業もそこで働く人も、いま新しいパラダイムが求められている。これまでうまく機能してきた組織形態、マネジメント手法、あるいは個人の働き方や仕事観は、この変化にうまく適応できない。世界の変化によって、企業組織とはたらく人はどのように変わり、あるいはどう変化する必要があるのだろうか。

これから数回にわたり、グローバル化という取り巻く環境の変化による影響を、企業組織にかかわるマクロな視点と、個人の仕事観にかかわるミクロな視点から論じたいと思う。

キーワードは「境界のない世界」である。